あなたは水族館のジンベエザメ成長して大きくなると海に放流され、定置網にかかった新たな個体と入れ替えていることを、知っていましたか?
しかも、ジンベエザメの名前は代々引き継がれているのです。
以前見たジンベエザメの「〇〇ちゃん」だと思っていたら、実は「〇代目〇〇ちゃん」だったということも…(汗)
私はジンベエザメが好きで、ひょんなことからこの事実を知りました。正直、ショックすら受けました。皆さんはどう感じるでしょうか。
この記事を読んで、水族館でジンベエザメを飼うことについて、一緒に考えられたら嬉しいです。
水族館のジンベエザメはなぜ海に放流されるのか
水族館のジンベエザメが海に放流される理由、それはジンベエザメが大きくなりすぎると飼いきれなくなるためです。主な理由として考えられるのは以下の3つです。
- 水槽の大きさに限界があり狭くなる(余裕をもって泳げなくなる)
- 搬入・搬出などの移動ができなくなる(ジンベエザメを運ぶ大きさの車両がなくなる)
- 飼育管理が難しくなる(治療などで追い込んだり保定することが危険になる)
このような理由から、一部の水族館では全長5.5mを上限として再び海に帰す方法で継続展示を行なっているのです。
水族館が飼育していたジンベエザメを放流した事例
日本のジンベエザメを飼育しているすべて水族館が、大きくなったジンベエザメを海洋に放流しているわけではありません。
現在、ジンベエザメを飼育している園館はわずか3園館。美ら海水族館(沖縄県)、海遊館(大阪府)、いおワールドかごしま水族館(鹿児島県)になります。このうち、ジンベエザメの海洋放流をおこなっているのは海遊館といおワールドかごしま水族館の2園館です。
この2つの水族館のジンベエザメの海洋放流事例について、以下にまとめました。
海遊館の「海くん」「遊ちゃん」
海遊館では「遊ちゃん(メス)」と「海くん(オス)」の愛称を受け継いでいます。現在飼育されている遊ちゃんは4代目。海くんは8代目になります(2024年1月現在)。
えっ!同じ名前を受け継いでいるなんて知らなかったよ…。
愛称 | 性別 | 展示開始 | 異動日・理由 | |
海くん(初代) | オス | 1990年7月沖縄より来園。 | 記載なし | 記載なし |
海くん(2代目) | オス | 1991年10月20日高知県土佐清水市以布利から搬入?(確証なし) | 記載なし | 記載なし |
海くん(3代目) | オス | 記載なし | メスとの相性が悪く、飼育日数約3ヶ月で海洋へ放流。 | 放流 |
海くん(4代目) | オス | 2001年7月に同県土佐清水市沖で定置網。 | 2007年9月10日(推定10〜11歳)全長4.96m。 | 放流 |
海くん(5代目) | オス | 2007年6月に高知県室戸市沖で定置網。2007年9月12日。推定5~6歳、全長4.1m。推定体重0.9t。2007年9月~2011年7月まで飼育。 | 2011年9月29日高知県土佐清水市沖合(推定9〜10歳)。全長5.5m、推定体重1.5t。飼育日数3年10ヶ月。 ・データーロガー装着 | 放流 |
海くん(6代目) | オス | 記載なし | 記載なし | 記載なし |
海くん(7代目) | オス | 2016年7月22日。 | 2019年10月19日徳島県蒲生田岬沖へ放流。 ・データーロガー装着 | 放流 |
海くん(8代目) | オス | 2019年10月19日より一般公開。推定年齢4~5歳、全長4.2m、推定体重約700kg。2019年9月1日に高知県室戸岬の定置網に入網。 | ・2024年10月3日高知県土佐清水市沖で放流(推定年齢9〜10歳・全長5.9m・体重1.5t) ・2024年11月5日に愛媛県宇和島市津島町の岩松川に迷いこみ、6日に死亡確認。 | |
遊ちゃん(初代) | メス | 1990年7月。沖縄から来園。 | 飼育日数3053日。 | 記載なし |
遊ちゃん(2代目) | メス | 1998年7月、高知県沖の定置網に入網。 | 2007年5月13日死亡。全長5・37m、体重1・9t(2007年5月7日)。飼育日数2505日。 | 死亡 |
天ちゃん | メス | 2013年6月26日高知県から来園。体長約4・3メートルで、推定4~5歳。2013年8月に命名。 | 2014年7月13日死亡。 | 死亡 |
遊ちゃん(3代) | メス | 2011年7月・推定年齢7〜8歳・体長4.7m | 2014年7月16日死亡。 | 死亡 |
遊ちゃん(4代目) | メス | 2014年8月25日。推定年齢7~8歳、全長4.87m、推定体重約1,000kg。2014年7月17日に以布利港の沖合(定置網)。 | 飼育継続中 |
いおワールドかごしま水族館の「ユウユウ」
1997年5月30日開園。展示予定だった2頭が同年3月と11月に死亡し、ジンベエザメ不在のままの開園となりました。海遊館と同様に愛称は引き継がれており「ユウユウ」の名で親しまれています。
愛称 | 性別 | 展示開始 | 捕獲日(体長) | 捕獲場所 | 異動日・場所 | 理由 |
初代 | オス | 2000/11/22 | 2000/10/20(4.25m) | 鹿児島県高山町(定置網) | 2002/08/01鹿児島県笠沙町(5m強) | 放流 |
2 代目 | オス | 2002/7/24 | 2002/6/17(3.8m) | 鹿児島県笠沙町(定置網) | 2005/08/08笠沙町野間岬沖(5.4m同年7月) | 放流 |
3代目 | メス | 2005/7/28 | 2005/6/25(4.4m) | 鹿児島県坊津町秋目沖(定置網) | 2007/7/31南さつま市笠沙沖(5.3m同年7月) | 放流 |
4代目 | オス | 2005/10/27愛称「ユウ太」で展示。 2007/7/21〜4代目ユウユウとして展示。 | 2005/7/20(1.36m) | 鹿児島県笠沙町(定置網) | 2009/8/5 鹿児島県南さつま市の海上生簀(4.47m 同年8月) | 死亡 |
5代目 | オス | 2009/08/04 | 2009/6/25(3.8m) | 鹿児島県南さつま市笠沙町(定置網) | 南さつま市野間岬沖(5.1m) 衛星発信器を装着 | 放流 |
6代目 | オス | 2011/08/23 | 2011/7/15(3.7m) | 指宿市かいゑい漁協の定置網 | 鹿児島県南さつま市の海上生簀(5.17m) | 死亡 |
7代目 | オス | 2015/08/23 | 2015/08/03(4m) | 015/08/31 肝付町(定置網) | 2017/08/25 鹿児島県南さつま市笠沙町野間岬沖(5.4m 1300kg) ・ビデオ記録計を装着 ・海上生簀で採餌トレーニング後(以後継続) | 放流 |
8代目 | オス | 2018/06/26 | 2018/05/31(5m) | 南さつま市笠沙町片浦(定置網) | 2018/09/25 南さつま市笠沙町沖(5.2m) | 放流 |
9代目 | メス | 2018/09/02 | 2018/09/01(4.5m) | 南さつま市坊津町(定置網) | 2019/09/17 南さつま市笠沙町沖(記載なし) ・行動記録計装着 | 放流 |
10代目 | オス | 2019/09/06 | 2019/08/01 (3.6m) | 薩摩川内市下甑町沖(定置網) |
これを見ると、放流事例9例のうち2例で死亡していることがわかります。
その後は、放流前に海上の生簀(いけす)で環境に慣らし、摂餌トレーニングをおこなうなどの改善策が取られています。また台風の影響で海上生簀の網に絡まって窒息してしまった事例などから、台風が接近している場合には生簀には入れずに、直接水族館の水槽に搬入するなどの柔軟な対応もみられます。
海洋放流による知られざるジンベエザメの生態解明
水族館のジンベエザメが海洋放流されていることを知った時、こう思いました。
長い間、飼育されていたジンベエザメは、海に放たれても大丈夫なのだろうか?
ジンベエザメはただ海に放流されるわけではなく、データーロガーなどの発信機やカメラなどの計測器を装着し、放流後の状態をモニタリングしています。
その結果、ジンベエザメが深海へ潜る様子や季節による海水温の変化に伴う移動などが明らかになり、謎多きジンベエザメの生態解明にも貢献しています。
ただ、放流されたジンベエザメのうち、何頭がどのくらい生存しているのかは明らかにされていません。そのあたりも気になるところです。
まとめ
水族館で飼育されていたジンベエザメの海洋放流について、いかがでしたでしょうか。
賛否両論ありそうな内容ですが、冷静に野生動物の飼育について考えるきっかけになれば嬉しいです。
私もふくめて、この事実を知らない人も多いのではないかと思いました。まずは知ることが大事だと考えているので、今回は記事にしました。
将来、どの水族館でもジンベエザメを終生飼育できるようになるといいな。